320155 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

青い地中海に赤い家が見えてきた!!!

                     ≪十月七日≫    ―壱―

   バスの中で一夜を過ごす朝は、首の痛さや腰の痛さで目が覚める。
 快適な目覚めではなく、ゆうつな朝を迎えるのだ。
 目が覚めて暫くは、首筋や腰のマッサージをしなければならないのだ。
 バスは相変わらず、つまり、眠りにつく前と同じように、わずかな振動を身体に伝えながら、淡々と走り続けている。
 まるで、フッ!と暗夜の空間を走り抜けてきたように、いささかの疲れも見せず・・。

   朝日がバスを追い立てるように、陽射しを放ってくる。
 夕日を追いかけていたバスが、今度は朝日に追い立てられるように走り続けている。
 こんな朝を迎えるのに、もう慣れっこになってしまった。
 相変わらず、何もない自然がバスを包んでいる。
 ここから少し北に向けると、ソ連との国境がある。
 数時間走った所にあるはずだ。
 あの有名な、カスピ海や黒海も目の前だ。

   バスの中を見渡すと、何人かの人が窓から見える景色に見入っているのが見える。
 標識がバスの窓を過ぎった。
 ”ANKARA”まで、20㎞と書かれていた。
 その標識を目にして、アンカラの街を目にするのに、時間は掛からなかった。
 アンカラはトルコの首都だ。
 首都が、イスタンブールから、ここアンカラに移されてもう数年になるらしい。
 アンカラは遷都なのだ。

   目に映るアンカラの街に目を奪われた。
 まわりに大きな山を持たない代わりに、低い起伏の多い丘陵地が、街全体が波打っているように広がっている。
 その丘陵地に、緑ではなく、住宅が建ち並び丘陵地全体を覆い隠しているのだ。
 本来なら、緑が広がっているはずの所に、家屋が密集しているからすごい。
 丘陵地自体が見えなくなってしまい、四角い家並みが小高い山を形成していると 言った方が良いのかも知れない。
 道は整備され、時たま、立体交差も目にする。
 街に中に入ると、高層住宅なども目にするようになる。

                      *

   アンカラの街に入ってすぐ、バスは大きなガレージへと吸い込まれていった。
 夢の中を走ってきたこのバスも、どうやらここで終点らしい。
 バスをここでチェンジするようだ。
 バスが停まると、イスタンブールまで行く人が五六人、我々と一緒にバス・オフィスに誘導されて行く。
 さすがに大都市のガレージらしく、数十社のバス・オフィスが所せましと並び、ドイツ製の大型バスが何十台となく出入りしている様は壮観である。

   朝の通勤客なのか。
 ものすごい数の人々が、右往左往しているのを横目で見ながら、誘導されていく。
 バス・チェンジに当てられている時間があまり無いらしく、チケットを確認した代理店の人に、”早く○○番に行け!”と言われ、指差す方向へと急ぎ足にて・・追い立てられることになる。

   しかし、このままでは、バスに乗れない。
 アンカラからイスタンブールまで、まだかなりの距離を残しているはずだ。
 朝のトイレは必ず済まして置かなければ酷い目に晒される。
 乗り込むバスを確認して、少し待ってもらい、トイレに駆け込んだ。
 なんとビックリ。
 ここのトイレは有料なのだ。
 ”これで三度目かな”

   小さい方が、0.5TL(≒10円)。
   大きい方が、1.0TL(≒20円)。
 トイレの前でおじいさんが、日本の風呂にある番台よろしく座っている。
 台の上には、これ見よがしに、TL(お金)が光っている。
 有料だからといっても、トイレが清潔という訳でもないようだ。
 ただただ、お金を払いたくなければ、他のトイレへでも行けば良いとでも言っているように、お爺さんが大きな顔で座っているのには、閉口してしまう。
 このトルコでは、これからもずっと、この有料トイレがついてくるのだ。

                      *

   乗り換えたバスは、ここまで乗ってきたバスと同じドイツ製(FIAT)だ。
 バスの中は、相変わらず満席状態。
 チケットのバス・シートNOは、”42”。
 このバス、NO”45”までしかないので、もちろん最後尾なのだが・・・・最後尾は、背もたれが倒れず楽ではない。

   助手に声をかける。
       俺 「前へ移っても良いかい?」
       助手「OK!」
   リクライニングのある後ろから二番目に移ることのした。
 シートに腰を下ろすとすぐ、助手があのレモン汁のようなものを持ってきた。
       俺 「俺は要らないから・・。」

   バスは、ガレージから道路に出て、イスタンブールに向けて走り始めた。
 イスタンブールに着けば、もうギリシャに着いたのも同じである。
 長かったイランからの道は、アフガンまでの厳しかった旅行程を、もはや過去のものにしてしまっていた。
 だが、ここにはもうすでに、あの夢中にさせてくれた旅も無くなっていた。
 それは、今乗っているバスの異様なほどの現実的なものに、身を負かしていることからモ分ろうと言うものだ。

   なだらかな丘陵地には、住宅に替わって畑が広がっている。
 時々、有料トイレに立ち寄りながらまた、そこで果物を調達しながら進んで行く。
 どんどん坂を下り始めた。
 ・・・・・・・・・?
 今までの景色を一変するような、美しい光景が目に飛び込んで来た。
 海だ!
 地図を広げてみる。
 ”地中海かな?”
 ”ちょっと違ってる??”
 バスは、Izmitの街の近くを走っていると思うのだが。

                   *

   陽光が射し込み、花が咲き乱れ、白い家並みが地中海の青と、深い緑の木々の中に点在している様は圧巻だ。
 これだ。
 俺の憧れの土地、地中海を望む展望。
 感激の一瞬だ。
 これを見るために、旅してきた。
 困難な道を旅してきたのだ。

   しかし、あの期待した地中海のイメージとは、ちょっと違う・??
 雲が少し多いが、そればかりではないようだ。
 ギリシャ特有のものとばかり思っていた白い家に青い地中海は、ここトルコの街にも見ることが出来るようだ。
 そんな光景が、何処までも続く。
 新しい家々が建てられている。
 柱と梁がコンクリートで固められ、レンガブロックが周りを囲っていく。
 そして、最後の仕上げは、必ずと言って良いほど、白や青や赤なので原色で着飾っていくのだ。
 これも観光の国ならではのものと聞く。
 地中海の青に、白壁の街並み。
 なんとも、ロマンチックな風景だ。

   左手にはずっと、海を眺めながら、片側三車線の広い道に入った。
 快適な道には、今までに無かった、大きな道路標識が林立している。
 大きな町に近づいている証拠だろう。
 もちろん、その大きな町がこのバスの終点である、イスタンブールである事に間違いないのだが・・・。
 満席に近かったバスも、乗客たちを少しづつ降ろしていく。
 右手に見える土色の丘陵地では、軍事訓練でも行われているのだろうか。
 兵隊達らしい人影やそれらしい建物が見えてきた。
 あの有名な、ギリシャとトルコの間で遠い昔から行われてきた、キプロス紛争が思い出される。
 まだまだ、紛争が続いているのだろう。



© Rakuten Group, Inc.